メインはタカ |
中間平のメインは鷹です。このページを作ろうと思い立ったのも鷹あればこそです。
そのタカの仲間の中でもサシバが最大のメインです。そしてハチクマ。この二つが渡っていくのを楽しむのが中間平の醍醐味なのです。
しかし、その2種のタカのみでは中間平は語れません。何しろ、秋の一時期、中間平はタカのメッカとなるのですから。ちょっと大げさ。でもこんなに身近に多くの種類のタカを見ることができる場所はそうそう無いと思います。
中間平で私が確認した猛禽類はハヤブサの仲間も入れて十二種類。皇鈴山では追加だイヌワシが見られました。
サシバ・ハチクマ・クマタカ・イヌワシ(24年10月1日・皇鈴山)・オオタカ・ハイタカ・ツミ・ノスリ・
ミサゴ・トビ・ハヤブサ・チョウゲンボウ・チゴハヤブサ
他にも秩父の山から下りてきたクマタカなどが見られる可能性があると思っています。(’12年にクマタカ観察)
ある日のドキュメント |
その日私は7時半に家を出ました。中間平の山の方を見ると雲が少しかかっていました。しかし、天気予報は晴れです。期待して車を走らせました。
現地中間平の展望テラスに着いたのは8時を少し回っていました。太陽は雲に遮られていましたが、平地の方は太陽の光を浴びていました。こちらもじきに太陽が出るだろうと感じました。
すでに二人のバーダーが観察を始めていました。知人とその友人でした。
「おはようございます。どうですか」
「サシバはまだです。オオタカが一度出ました。それとノスリ」
「サシバのわたる時間にはまだ早いですかね」
中間平のサシバはあまり早い時間には出ません。早くても8時過ぎ、だいたいは9時過ぎてからが多いようです。
「この雲がどけば、今日はよさそうなんですがね。風もそれ程強くないし」
「はい、空気も澄んでいますから、観察には最高です。日光の男体山も筑波山も見えますから」
そうです、空気の澄んだ日には中間平から筑波山がよく見えるのです。
「出ましたよ」
と、知人(今後はNさんとします)の友人(今後はKさんとします)が叫びました。
私はとっさにKさんの方を見ました。そしてKさんが指差す方を見ると、ちょうど雲の切れ間の光の差すところにタカの影が光っていました。
「ノスリですね」
Kさんはそれでもちょっと興奮していました。どうやらバーダー初心者のようでした。もしかしたら自分で見つけた初めての鷹だったのかもしれません。その興奮が伝わって、ノスリですが何故かこちらも楽しくなってきました。ノスリは、ここでは一番姿を見る種類です。
しかし、そこからが面白かった。そのノスリは肉眼でもはっきりとノスリとわかる距離をゆっくりと旋回しながら上昇していきました。そんな間に雲の切れ間が広がり、私たちの場所にも光が差してきました。
「キイーキキッ」
「うん?」
「何の声でしょう」
しかしその正体はすぐに判りました。ノスリを追いかけるようにして小さな影が上昇していました。ツミです。
そして、そのツミはノスリにモビングを仕掛け始めたのです。
ツミはこれでもか、これでもかとしつこくノスリに突っかかります。ノスリは時にはいなし、時には急転してツミを交わします。それでも本当に戦うのではないので、ノスリがちょっとめんどくさそうな感じに見えたのは私だけだったでしょうか。
二つの影は次第に上昇しながら遠のき、ついには見えなくなってしまいました。
そんな事をしているうちにもバーダーの数は続々と増えていました。私の友人も二人やってきました。
「もうちょっと早く来たら、ツミがノスリにモビングを仕掛けるのが見られたのにね」
「どうせ、そんなところでしょう。『さっきまでいた』は、バードウォッチャーの悲しき名言ですから」
と、いじけて見せたのは友人のN君。
それからしばらくはトビが出たくらいで、他に何も出ませんでした。
「今日はいい日だと思うんだけどね?」
と、私の友人のSさんが呟く。
10時を過ぎた頃です。結構暑い日ざしが照り、すっかり雲もあがっていました。私の双眼鏡の中に微かに2・3の影が入りました。北の方向です。まだ声は上げません。とても肉眼で見える距離ではないし、確信が持てませんから。その影は数を増しながら上昇しています。
「出たかもしれませんよ。私の双眼鏡の方向を見てください。まだ肉眼ではよく見えないかもしれません」
いっせいに私の双眼鏡の先を見る気配が聞こえました。しばらくして
「見えます。5羽・・・・6羽・・・・」
「全部で8羽いると思います」
次々に双眼鏡にその影を見つける人間が増えていきます。次第に大きさも増してくるようです。
「もう肉眼でも見えますよ。8羽います」
「サシバですね」
じわじわとした興奮が私を包み、回りにも興奮の気配が充満しているようでした。
「こっちに向かっていますね。9羽・・・・いや10羽」
もうそれからは興奮の一途です。
そのサシバは北の鐘撞堂山のややこちら側で上昇しながら荒川を渡ってこちらに向かっていました。直線的にこちらに向かい始めるとその姿はいっきに大きくなっていきました。かなり上空を飛んでいるのでカメラに収めるには遠すぎます。それでもあちこちからシャッター音が聞こえました。私も証拠写真とばかりに何枚か写しました。
ひとしきり楽しませてくれたサシバは南の方へ飛び去りました。しかし、みんなの興奮の余韻はしばらく続きました。
「トビだ」
と、誰かが呟きました。しかし、トビではチラリとそちらを見るだけで、誰も注意深くは見ません。しかし何の気なしにその方を見ていると、次第に近づき、しかも目線より下を飛んでいました。私はすぐにカメラを向けました。トビでも、目線の下を通り、背中を見せ、バックに森や町並みが見えるシチュエーションはそう沢山はありません。これも、中間平の醍醐味の一つなのです。少し遠かったですが、私は数枚シャッターを押しました。
中間平では、他にハチクマやサシバやノスリやオオタカが目線の下を飛ぶことがあります。
次に我々を楽しませてくれたのはオオタカです。立派な成鳥が悠々と我々の真上を舞ってくれました。こんな状況も、いくら熱心なバーダーでもそうそうは見られません。みんな「綺麗!」「真っ白だ!」などと歓声を上げながら空を見上げていました。
そのオオタカはその後、もう一度我々の上を通ってくれました。
「まるで挨拶に来たようだ」
と、誰かが言いました。
それから1時間半ほど、サシバの小さな集団が何度か通っていきました。
「現在、24羽です」
誰かがカウントしている数を発表しています。
「そろそろハチクマがほしいね」
と、友人のSさん。
「Sさんと一緒だとなかなかいい場面にでくわさないですからね」
と、別の友人のN君。などと冗談をいいながら笑っていると
「あれは?」
と、大きな声を上げた方がいました。
いっせいにそちらの方を見ます。ほとんど目線の高さを滑るようにこちらに向かっている猛禽がいました。急いで双眼鏡で覗きます。
「ハチクマ?」
「ハチクマだ」
いっきに興奮状態に陥る集団。私もカメラを向けて、もっと近づくのを期待しました。
それは我々のほとんど真横150mくらいを飛んで、山にぶつかった所で上昇に入りました。写真を撮るにはちょっと遠い距離でしたが、シャッター音はあちこちから響いていました。
「もう1羽」
上昇を始めたハチクマを追うように、どこからともなくもう1羽別のハチクマが上昇し始めました。
「いったいどこにいたんですかね」
「我々が気づかなかっただけで、同じように飛んできていたのかもしれませんね」
そんなことはよくあることです。人間の目なんてたいしたことはありません。みんな全く気づかないうちに、サシバの集団が真上に来ていたなんてこともあります。
午後もタカの競演は続きました。ハチクマはそれきりでしたが、サシバは45羽までカウントしました。ノスリはみんなをあきさせないように時々出てくれましたし、遠くでしたがオオタカもまた出てくれました。
そしてその日最後のイベントがミサゴでした。山の上をミサゴが?と思われるかもしれませんが、下を荒川が蛇行して流れているためどうやら山越えして近道を通るようなのです。確かなことはわかりませんが。
「ミサゴまで出てくれたんだから、今日は本当にラッキーな日でしたね」
と、友人のN君。
「俺がいても、出る時は出るんだよ」
と、友人のSさん。
「やはり、ラッキーボーイは私でしょう」
と、私。
そんな冗談が明るく飛び交う、充実した一日でした。
他のバーダーもこの日は満足して帰っていきました。
中間平では、こんなラッキーな日は年に何度もありません。しかし天気さえ良ければ何か猛禽は飛んでくれます。何しろメッカですから。